宜蘭県 陳秀雲さん—末期がんでも続ける

身を切るような冷たい風が顔に吹きつけるうす暗い空の下、亀山島が海にぽっかりと浮かんでいた。波が灰色の堤防に勢いよく打ち寄せ、しぶきが上がった。一人のお婆さんが、目を凝らしてリサイクル可能なものを探していた。彼女の目には、海岸にあるすべてのボトルや缶、プラスチックは環境への負荷として映る。取るに足らない存在に見える彼女だが、誰にも知られることのない物語がある。

取材に出発するので、宜蘭県頭城鎮に在住する環境保全ボランティアの陳秀雲(チェン・シユウユン)お婆さんに、前もって電話をかけた。お婆さんの声は大きく元気いっぱいで、かなり話好きだった。しかし、彼女が自身の過去を話してくれた時、私は唖然とした。お婆さんは中年以降、三つのがんに罹っており、今も末期の肺がんで、分子標的治療を続けているという。しかし、会話からは、彼女が癌の重症患者とは全く感じられなかった。その上、想像し難いのだが、病気に苦しみながらも、リサイクル活動を続けていることである。化学療法の副作用はないのだろうか。他の人だったら、きっと気分がどん底に落ち込み、憂鬱な気分から抜け出せないであろう。なぜ、お婆さんはこんなにも楽観的で前向きでいられるのか。一体どんな力が、彼女をエネルギーに満ち溢れさせ、気楽に残りの人生に向き合わせているのだろうか。

揺るぎない精神

秀雲お婆さんは、毎朝三時に起きて、『大悲呪』と『般若心経』をそれぞれ二百回唱えてから、祈願し、回向している。空が明るくなると、身支度してリサイクル活動に出かける。こうして彼女の一日が始まる……。

自分の目で確かめないと信じられないことだが、目の前で、海岸で腰をかがめてリサイクルできる物を拾っている年寄りは、実は末期ガンの患者なのである。八十歳の秀雲お婆さんは、頭城鎮に生まれ育ち、この土地と海に深い愛着を持っている。二〇一四年に證厳法師の「皆で環境保全をしましょう」という言葉を聞いて以来、環境保全の重要さを感じて投入するようになった。自ら実行するだけでなく、周りの家族や友人たちにも、資源の回収を暮らしの中に根付かせようと呼びかけている。長年、病気に苛まれてきたが、自分を病人だと思ったことはなく、勇敢に無常の試練を受け入れ、弛まず奉仕し続けている。このような揺るぎない精神は、まるで遠く波間に凛としてそそり立つ亀山島のようである。

道中の風景

その日、秀雲お婆さんに付いて行き、路地を通って、バイクに回収資源物を載せる彼女の姿を見た。道すがら、住宅や旅館、民宿等の前にまとめて置いてあった回収物を載せて行った。バイクは積める量が限られているので、先ず近くのリサイクル拠点に運び、荷物を降ろしてからまた、次の回収場所へと向かった。すべてを回収し終わるまで、こうして行ったり来たりしていた。

また彼女は、わざわざ近くの烏石漁港と海岸に立ち寄って、捨てられた瓶や缶があるかどうかを確かめ、完全にきれいになっているのを見てから安心してそこを離れるのである。途中で多くの野良犬に出会ったが、面白いことにお婆さんは、大きな声で、それぞれ犬たちの名前を呼んだのだ。そして、どの犬もお婆さんのことを知っているようで、バイクが止まるとすぐに近寄ってきて、撫でてほしいとせがみ、お婆さんを喜ばせた。毎日リサイクル活動に行く時、道で出会う野良犬たちがお腹を空かせていることを心配して、必ず食べ物を持って出かける。長く付き合っていると、その犬たちは友人のようになり、お婆さんを見かけると直ぐ寄ってくるのだ。

お婆さんの純粋な慈愛は、環境を大切にすることを体現しているだけでなく、生命を慈しむ行動にも表れている。彼女が無私の奉仕をするからこそ、私たちはこのように真実の、しかも貴重な善美の光景を目にする幸せに恵まれたのだ。

余生で願うこと

お婆さんは普段から一人で三食を作り、住まいもきれいに片付けている。午前中は資源の回収に出かけ、午後の時間に家事をする。時間を無駄遣いしない彼女は、やれることならいくら苦労しても苦労と思わない。私は好奇心を抑えきれず、こう尋ねた。「お体はとても辛いのではないですか?」。すると、お婆さんは「病気の間は辛いですよ。とても苦痛で、何も喉を通らなかったり、吐いたりすることもあるけど、病気のことは考えないで、起きられたら続けることができるのよ。できることをすればいいのよ……」と答えた。

お婆さんはそう言いながら、何気なくノートを取り出した。そこには、毎日お経を何回唱えたかを「正」の字で書いてあり、また毎年回収したペットボトルの数も細かく記されていた。二〇二四年現在、その数は七十六万五千本に達していた。その時初めて、お婆さんにはもう一つの願いがあることを知った。それは、生涯で百万本を回収するという願いである。この驚異的な記録は、単なる数字の積み重ねだけではなく、お婆さんの揺るぎない信念の実践でもある。彼女は、病苦に意志を砕かれることなく、生死を達観し、粘り強さと智慧をもって生きている。あのびっしりと書かれた筆跡には、苦しみを乗り越えた彼女の大きな願いが込められている。お婆さんは自分の健康を祈ることなく、残りの人生を環境保全に尽くしている。お婆さんの願いが叶うように、心からここで祈っている。

(慈済月刊七〇四期より)

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