慈済の創設記念日 寿桃に秘められたソフトパワー

三種類の中華まん生地を最高比率で混ぜ合わせ、それを繰り返し揉み推しした後に形を整えて発酵させ、高温で蒸し、凹みを付けて色付けします。そうすると見た目が綺麗で、口当たりが柔らかくて、コシの強い寿桃(誕生祝い用の桃型まんじゅう)が出来上がります。それは修行での様々な鍛錬のように、柔軟(にゅうなん)な心を磨き上げますが、ソフトパワーを表してこそ、人々に愛され、広く良縁を結ぶことができるのです。

慈済の創設記念日を迎える度に、寿桃を作ることが静思精舎の一大行事になっています。

今年は慈済創設五十五週年です。三月末、各地から集まったボランティアや会員は、心の故郷に戻って「朝山」参拝をしました。四月八日からは精舎の常住尼僧と高雄の方漢武(フォン・ハンウー)師兄が率いる寿桃作りのチームが、連続十五日間にわたって十三万個近い寿桃を作りました。それは参拝者に縁結びの品として贈呈される他、各志業の職員に贈られたり、五月五日の慈済五十五周年当日の記念品としました。純白のベースに淡い桃色の寿桃は、證厳法師と常住尼僧たち及び全世界の慈済ボランティアの愛と感謝、祝福の気持ちが込められています。一つひとつが「福」と「慧」であり、寿桃への愛しさは止まりません。「とっても荘厳で、綺麗!食べるのが惜しいです」。

寿桃作りの過程は煩雑です。小麦粉、油、塩、砂糖、氷水の他、酵母菌も欠かせない材料です。精舎の寿桃作りを任されて十二年になる方さんによると「必要な材料は一つも欠かせません。これは因と縁の融合です」。それは慈済人が、学歴、社会的地位、経済力を問わずに、皆が心を合わせ、仲良く、互いに愛しみ合い、協力し合い、それぞれの立場で本分を尽くし、能力を発揮するようなものです。それこそ、真善美である慈済世界なのです。

チーム中のメンバーは色々な職業の人で、大半は寿桃作りに関して素人ですが、大衆と良縁を結びたい一心で喜んで作っています。参加者の中には、「場所」を取られないようにするため、我慢して手洗いに行かない、という人もいました。「人が多いと、『治安』も悪くなります。ちょっと作業場から離れて戻ると、その場所には他の人が『立ったり』、『座ったり』しているのです」。「心して繰り返し学べば、慣れて来て上手になり、素人も玄人になれます」と方さんが褒めました。確かに、人には無限の可能性が秘められているのです。

静思精舎で作られた13万個の寿桃。製作の全過程で心し、無量の祝福が込められている。

柔らかくて歯ごたえがあり、コシが強い。丁度良い加減が最高

寿桃作りにあたって、三種類の生地を丁度よく混ぜ合わせる必要があります。それらは、四十八時間発酵させた風味の強い完全熟成生地と十二時間発酵させたコシの強い半熟成生地、そして中継ぎの役割を果たす未熟成生地です。それらを合わせるのは、生地それぞれの役割があるからです。「それは、慈済世界が老年、中年、若年ボランティアによって成り立っているようなもので、高齢者を世話し、中年者が担い、若年者を囲い込むのです」と方さんが言いました。三者一体になれば、慈済のソフトパワーで、社会にもっと大きな貢献ができるのです。

どうして氷水を使うのかというと、酵母菌を暫く眠らせ、適切な時間と場所で効能を発揮してもらうのです。もし、桃の形にする前から発酵が始まれば、完成品のコシの強さと密度が不均等になり、モチモチした口当たりが得られなくなります。

誰でも簡単にマスターできるように、方さんは製作過程をマニュアル化しました。人の役割分担については、「適材適所で、各々の習性と特長に合った作業場に就かせることで、その能力が発揮でき、やり甲斐を感じてもらうことができるのです」と方さんが言いました。それは、氷水と酵母菌が適切な時間と場所に現れれば、寿桃の品質が明確に違って来るのと同じです。

中道は、仕事や身の処し方における最良の方法です。三種類の生地を一つに混ぜ合わせる過程は中道を選び、行き過ぎも不足も円満ではありません。攪拌は緩慢の組み合わせで、時間を上手く捉えれば、生地は柔らかくてモチモチ感が出て来ます。

生地を高速のプレス機に通した後、十四回繰り返し捏ねることで空気を押し出し、程よい弾力性とふわふわでしっとりした食感が生まれます。また同時に、生地表面のざらざらを滑らかにする重要なポイントです。なぜ十四回かというと、やはりそれが中道なのです。多すぎると固くなり、不足すれば水っぽくなって、しまらなくなるのです。

寿桃作りのそれぞれの工程で、生活の中の禅が見てとれます。高速回転する生地を十四回繰り返し、それを落とさず受け取れるのも禅定の修行です。人は群衆の中で鍛え抜かれて、性格が丸くなります。その過程は辛いものですが、痛みを感じて不純物がなくなれば、柔軟な心が磨き出され、常に人と良縁を結び、人に愛されるようになります。

続いて、生地を均等な重さの寿桃にするには、もう一つ秘密兵器があります。三十六等分に分けられる裁ち切り板です。方さんは證厳法師の「慈悲等観」という理念に基づいて「どれも同じ大きさになる」ようにそれを設計しました。桃の形に作る時、餡が偏らずに真ん中に来るようにしなければなりません。そして焦らず、心して真摯な態度で、しっかりと餡を生地に包み込みます。生地をしっかり閉じないと餡が露出してしまい、「桃太郎」(淘汰と桃太は中国語では同じ発音)」となって淘汰しなければならなくなります。それでは、それまでの努力が無駄になります。

人によって握り方が違うので、桃の形も違ってきます。人も同じで、体格も顔つきも習性も異なりますが、目標は皆同じで、善に向かって進めば、社会は平和なものになります。

美善の環境が良い世界をもたらす

酵母菌を目覚めさせるために、形を整えた寿桃は四十度前後の環境に寝かせ、発酵させて膨らんでから、蒸し器の百度の温度に鍛えられるようになります。これで荘厳な見栄えになった後、包装の工程に入り、そこで縁のある人と良縁で結ばれるのを待ちます。

寿桃製作チームのメンバーの一人である高雄の黃明朝(ホワン・ミンツァオ)さんは、三十九歳になるまでは統率力のある地域のボス的な存在で、質屋を経営しながら、暴力による借金の取りたてもしていました。「以前はやっていけないことを沢山やりました。私は単純な生活に戻りたかったのですが、現実の環境が勝手にさせてくれませんでした」。黃さんは精神の導師である證厳法師に出会い、良知が喚起され、人生の方向と意義を見つめ直しました。それをきっかけに、彼は毅然と全ての事業を畳み、慈済に専念することにしました。「今の私は心配や不安がなくなり、単純で自在な生活を送っています」。

寿桃が誰にも好かれるようになるか否かは環境の力が左右します。適切な温度で発酵させてから蒸し器に入れて試練を与えます。人間も同じことが言え、善と愛の環境の中であれば、正しい方向に向い、輝かしい人生で自在な生活を送ることができるのです。

蒸し器から出てきた寿桃は、時間と争って凹みを入れなければなりません。以前、私たちは茶碗の蓋や小匙を使っていましたが、完璧ではありませんでした。色々試した結果、木製の杓子で作ったカーブが最も美しく、最も桃に似ていました。「何事も経験しなければ、知恵は生まれません」。初期の蝋燭作りのように、使い捨てコップや厚紙、銅管などでの型取りなど色々試しましたが、最適なものはヤクルトの空ビンでした。

また、凹みを入れる時の力具合も程よく握ってこそ、絶妙な流線形になるのです。ストロベリー味のピンク色のスプレーをする時も、均等な力加減で素早く作業し、位置も正確であって初めて、何重ものスプレー効果が出てきます。それは、菩薩道を歩む時に中道が唯一の成仏への道であることに似ています。

「縁を逃さず修行し、事にかけて鍛錬し、どんな所ででも精神修養する」と言われるように、困難を克服するのであって、困難に克服されてはならず、その気があれば困難ではありません。二〇〇〇年に印順導師の九五歳の卒寿を祝った時に、精舎で寿桃作りを始めました。二十二年来、一度も欠席したことのない徳宛(ドーワン)尼が、「感恩しかありません。大衆と善縁を結び、できなかったことができるようになったことに感謝しています。担うことを学び、喜んで協力することに他なりません」と言いました。その感恩の気持ちを持つことで、何をしても法悦に溢れ、福と慧を成長させただけでなく、祝福を受けた人も喜びが得られ、感謝に満ちるのです。


(慈済月刊六五五期より)

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