世界で新型コロナウイルスの感染が再び拡大─呼吸が贅沢として感じる時

各国でワクチン接種が実施されているが、新型コロナウィルスはいまだ津波のように世界各地を襲っており、五月の感染者数は世界で一億五千万人を突破した。自国のことのみを考えるのではなく、相互扶助があってこそ、共にこの大災害を乗り越えることができるのだ。

二〇二〇年末、様々な新型コロナウイルスワクチンが登場し、終わりの見えないコロナ禍に一筋の光をもたらした。しかし、五カ月が過ぎた今もなお、感染が抑制されるどころか、再び急拡大している。
二〇二一年四月には、わずか三十日の間に世界の感染者は二千万人増え、死亡者数は三十万人に達した。また、チリ、カナダ、イラク、ルーマニア、フィリピンでは、感染者数が百万人を突破した。

国際的な感染拡大を背景に、台湾では五月十一日から感染源不明の陽性者が複数例報告され、市中感染のフェーズに移行した。そこから九日間のうちに国内感染者数が千二百人も増加し、台北市ならびに新北市は十五日より警戒レベル3に移行、不要不急の移動やイベント、集会などを避けるよう呼びかけた。十九日からは台湾全土で警戒レベル3に引き上げられた。

慈済基金会は防疫対策を遵守し、全国の静思堂やリサイクルステーションの対外開放を中止した。また十六日から十九日には三千五百四十五個のフェースシールドを緊急に発送し、桃園市政府、台北市警察各局(萬華、中山、内湖、南港等)、新北市警察局、宜蘭県政府に寄贈して、第一線で防疫に当たる関係者らに提供した。

市中感染が一気に拡大したことで、台湾全土に緊張が走った。国際間でも感染状況は二〇二〇年のピーク時に比べて更に厳しさが増していたが、その背景の一つにインドでの爆発的な感染拡大があった。

慈済はインドの神の愛の宣教者会と協力して、コルカタで貧困家庭に対して食糧など救済物資を配付した。(写真の提供・慈済基金会)

インドの街頭にあふれる感染者

新型コロナウィルスの第二波が津波のようにインドを襲った。五月の第一週だけで感染者が二百七十万人を越え、世界における感染者数の半数を占めた。累計死亡者数は二十三万人と言われたが、これは政府が公式に発表した統計数に過ぎない。

インドは今年初めからイベントの開催を緩和しており、三月は数週連続で政治活動や大型宗教イベントなどで多くの人が集まり、第二波の引き金となった。とくに十二年に一度開催される「クンブメーラ」という世界最大規模のヒンドゥー教の大祭が、一月半ばにウッタラカンド州ハリドワール市から始まり、四月二十七日まで続いた。累計参加者数は一億人を超え、さらに変異株の出現で感染が加速し、ワクチン不足も手伝って、感染が急拡大する事態となった。

現地ではニューデリーと周辺の首都圏、ムンバイ、ベンガルールなどの大都市における医療崩壊から始まり、病床、薬品、呼吸器が不足するようになった。ベッドの空きを待つことなく、病院の外で息絶える者もいた。家族らは何とかして救おうと、ベッドや酸素を求めて奔走したが、酸素は闇市で価格がつり上げられ、厳しい品薄状態になっていて、お金があっても買えない状況にあった。死亡者の数が増え続けるので、連日夜を徹して火葬場で火葬が行われたが、キャパオーバーを迎えた火葬場の外には遺体が列をなして順番を待っていた。その第二波はネパールやスリランカ、カンボジアなどの隣国にも広がった。

インドは多くの新型コロナウィルスワクチンの生産大国であり、コバックス(COVAX㊟)にとって重要な供給国でもあった。しかし感染が爆発したことで、生産速度にも影響を及ぼし、間接的に多くの発展途上国がワクチンを取得できない事態となり、世界的な防疫にとっては、泣き面に蜂の事態になった。インドでの感染拡大を緩和するため、各国は緊急に酸素ボンベや酸素濃縮器、ワクチンなどの医療支援を行った。
㊟コバックスは、新型コロナウイルスのワクチンの公平な分配を目指す国際的な取り組み。

四、五月にかけて、慈済基金会の職員はインドの提携機関と連絡を密に取り合い、五月三日からは毎日打ち合わせを行って、緊急に必要な医療物資の品目や数量などを確認し、緊急調達を進め、一分一秒を争って救命物資を現地に輸送した。しかし、多くの都市がロックダウンし、国際線のフライトも欠航するなど、支援は時間との競争となった。

インドの二十八州のうち、慈済は十六の州で貧困救済を行い、今年四月十日の統計では、延べ九十四万人がその恩恵を受けた。患者が最も必要としている医療用品や医療スタッフに必須の防護装備は五月に空前の品不足になったため、インド・カミロ修道会主席のエリッカル神父はオンラインで通話した際に、同会の職員を通じてメッセージを寄せた。

「證厳法師、どうぞご安心下さい。私たちがしっかり人々の面倒を見ます。法師もお体にお気を付けください。インドの現状は皆さんには想像しがたいほどですが、私たちは教会に隔離センターを設けました。苦しむ人々がもっと支援と愛を得られるよう、私たちのために祈って下さい!」

慈済インドネシア支部は実業家から百万セットの物資パックを結集し、5月上旬までに45万世帯に米とマスクを配付した。ボランティアは4月にバンテン州コサンビ町サレンバランジャヤで物資券を配付し、防疫措置に留意するよう村民に促した。(撮影・クスヌル・ホティマ)

貧困救済活動を止めたくない

インドのほか、日本やマレーシア、フィリピンなどでもコロナの感染が再拡大しており、政府は防疫措置を打ち出した。各国の慈済ボランティアは居住地で、「声を聴いて苦難を救う」行動をとり、政府の防疫政策の厳守を前提に、貧困層や社会的弱者、天災の被災者支援を続けている。

フィリピンでは感染者が累計百万人を越え、大マニラ都市圏における感染状況は去年よりも悪化した。慈済が予定していた三カ月の貧困救済の物資配付は、全面的な実行が難しくなったが、ボランティアは智慧を絞り、収入に限りがある視力障害者を助けようと、米や食用油など約二十キロの生活物資を提供した。密集リスクを避けるため、身障者機関が車で物資を受け取りに来たり、慈済ボランティアが家まで届けたりした。この他、ボホール島、レイテ州オルモック市などの地域に対し、三カ月の物資配付を継続した。

ラマダンはイスラム教において、一年で最も神聖な月であり、ムスリムに自律と心身浄化を実践する機会を与える期間である。今年は四月十三日からラマダンに入り、五月十三日に明けた。しかしながらアルファ変異株の世界的な流行のため、トルコでは感染者数や死亡者、重症者が激増した。感染拡大を阻止するため、政府はラマダン前後において全面的に、最も厳格なロックダウンによる防疫対策を取り、あらゆる職場での活動が停止したため、トルコ国内に居住するシリア難民の家庭は、生計に大きなダメージを受けた。慈済ボランティアはスルタンガジ市の約四千三百世帯、アルナブトコイ地区の約千三百世帯に対し、カード一枚あたり百トルコリラと同等の価値を持つ物資カードを各家庭に四枚ずつ配付し、ムスリム家庭が食事に困らず、安心してラマダンを過ごせるよう支援した。

アメリカにおけるコロナウィルスの感染状況は最も酷く、感染者数は世界最多であったが、去年十二月中旬からワクチン接種を開始してから、感染拡大は落ち着きを見せた。政府は多くの大型ワクチン接種会場を設け、市民は英語のウェブサイトで予約をし、さらに会場では数時間並んで順番を待つことを強いられた。慈済のアメリカ医療基金会と慈済人医会は、多くのワクチン接種会場を設置して早急にワクチン接種を支援すると共に、ボランティアが英語の分からない移民をサポートした。移動医療チームはカリフォルニア州のセントラル・バレーに赴き、農業に従事する外国人労働者に接種を行った。医療保険がなく、都市部への交通手段がない彼らは、ワクチン接種を終えるとロトにでも当たったかのように喜んだ。

中南米では、アルゼンチンで一日に二万七千人が感染し、累計感染者数は三百万人を突破した。ブラジルは感染拡大が悪化の一途をたどり、感染力の強い変異株「P1」が既に南米各地に広がり、各国にとって最大の懸念であり脅威となっている。

ブラジルのフォス・ド・イグアス市にある特殊境遇家庭子女の友協会は、心に障害を持つ人を対象にした教育センターだが、元々このセンターに食糧支援を行っていた機関が続けられなくなったため、協会は慈済に支援を求めた。一本の橋を隔てたパラグアイのシウダード・デル・エステ市に住む慈済ボランティアは四月、差し迫った危機に対応して、二十一キログラムの食品と三・六リットルの油を含む食料バスケットを百セット、緊急で支援した。

パラグアイのシウダード・デル・エステ市の公立病院の裏手にはコロナウィルス専門の治療センターがあるが、疲弊した貧しい家族らは家に帰って食事を作ることもできず、近隣の福祉施設「サグラダファミリア」が彼らの拠り所となって、慈済ボランティアは食材を提供した。また、公立病院に医療防疫物資を寄贈するなど、第一線で戦う医療スタッフをサポートした。

チリでは多くの家庭が失業で収入を失った。ラ・グランハでは400世帯が慈済の支援を受けた。ボランティアが食用油を、市民が持参したエコバッグに入れていた。(写真提供・慈済チリ・サンティアゴ連絡事務所)

チリは今年三月下旬に国民の半数近くがワクチン接種を終えたが、感染者数は再び増加し、一日に七千人を超え、政府は再度ロックダウンを実施し、四月には国境を封鎖した。慈済ボランティアは、失業で給与収入がなくなって、食べ物に困っている貧困世帯を思いやり、様々な方法を考えて、ラ・グランハ市で物資の配付を行い、困っていた四百世帯を支援した。

アルゼンチンでは、ボランティアが遠く二千キロ以上離れた南部の森林火災エリアに駆け付け、被災世帯を支援した。四月にはロックダウンが実施される前にマスク、建材、物資券などを配付した。イタリアではボランティアがマスクなどの物資を寄付して赤十字の防疫をサポートした。エクアドルでは、慈済ボランティアが引き続き貧困家庭に食糧を配付し、マレーシアのクランタン州にある隔離センターでは病床数が切迫したため、慈済ボランティアが簡易折り畳みベッドを提供し、州政府をサポートして低リスク隔離センターを設立した。慈済は有形の物資を支援するだけでなく、人々に無形のパワーをもたらし、人々の暗い気持ちが変わり、愛を啓発し、依然終わりの見えないコロナの苦境の中で、自分を救ってから周りの人を助けることができることを願っている。


(慈済月刊六五五期より)

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