編集者の言葉
新型コロナウイルス感染症が広まって以来、オンライン授業が常態化するようになったが、欧米諸国の研究調査では、児童の読解力が過去三十年で最も大きく低下していると指摘された。この現象は、パンデミック後の世界的な教育危機を示唆している。
今年発表された「台湾児童読解リサーチ」によれば、三歳から十五歳の子供は、ネット上の短い文章や断片的な文字や語句に慣れているため、長い文章の読解力の不足が顕著であるという。このネットワーク時代に、情報を手に入れるのはとても便利で、大量のビデオコンテンツが溢れている。印刷されたものを読むのは、彼らにとってスピード感がなくて興味が湧かない。これも、デジタル時代の若い世代の集中力を養うのは難しいと言われる理由である。
読書することは文字だけにとどまらず、図表、データ及び背景情況の解読も含まれており、その中から自分にとっての意義を考え、ひいては創造性やコミュニケーションを取る能力を養うことができる。知識を広げるだけでなく、読書を通して人格を鍛え上げ、人生の方向を確立することにもなる。読書は自分のための終身学習だと言える。
デジタル技術が著しく発展している今日、読書はまだ必要なのだろうか?この問題は多くの議論を巻き起こしたことがある。デジタル時代は情報へのアクセスが比較的容易になったが、その入手方法も変化し、情報検索にはキーワードの入力が不可欠となった。その次に、大量の情報をふるいにかけて真に意義のある内容を選り出す必要がある。このことからも、読解力が重要であることは明らかだ。ある程度の語彙力と分析及び思考する力があって初めて、適切なキーワードを設定し、より焦点を絞った内容を検索でき、大量の情報に埋もれてしまうのを避けることができる。
二十年余り前、有志たちが台湾の遠隔地で読書を推奨する活動を始めた。そこに住む子どもたちは、家族構成や経済的要因により、書籍資源も親子で一緒に読書する機会も不足していたので、読書に対する興味と読解の能力を育てることは難しかった。
幸いにも、心ある市民から多くの書籍が寄贈されたので、読書ボランティアが子どもたちに付き添うと共に、慈善団体が災害後に被災地に入り、「物語の時間」を設け、読書を通して子供たちに自分の考えや感想を述べるよう励ました。子供たちは、自分たちが受け入れられて理解され、自分は一人ではないことを知り、勇気を持って未来に立ち向かうようになった。彼らの保護者も、生活に対する姿勢が前向きになった。
今月号の主題報道では、過去五年間で、静思書軒チームによって、台湾全土二百カ所以上の学校に「静思閲読書軒(慈済の提供する図書室)」が設置されたが、そこには、都市や遠隔地、離島及び矯正施設の設置した進修学校(進学のための補習校)が含まれる。校長先生がその必要性を表明した上で、実業家たちが資金援助を引き受け、出版に携わる人たちを招いて本を厳選した。慈済ボランティアは、学校側が提供したスペースのレイアウトを手伝い、温かみのある読書空間を作り出した。
読書力は、国の未来の人材素養に影響を及ぼす。デジタル技術が情報の流れを加速させている中、読書を基礎能力の一つとして養うことで、メッセージの意義を見分けられるようになれば、ひいては世界を理解することに繋がる。読書の道は家庭、学校、社会の多方面から開拓し、推し進める必要がある。
(慈済月刊六七二期より)