キッチンに入って故郷を思う

林育亘|ベトナム華僑の新住民。47歳、菜食歴5年

故郷を思う時、彼女はキッチンに入る。故郷の味がするレシピをめくっては、そこから幾つもの肉食料理を菜食に変えることに成功した。

家族の胃袋を満たすと、人生の味もまた甘美なものになった。

林育亘(リン・ユーシュエン)さんは台湾で生活して二十年になる。職を求めて故郷を離れる多くの労働者と同じように、故郷を想っても帰国する機会も時間もなく、この間に彼女がベトナムに帰ったのは三回だけである。月曜から土曜の朝九時から夕方五時まで電子工場で働き、家と往復するだけである。コマが回るように忙しい日々の中、僅かに日曜日だけは自分がリラックスできる時間なので、新北市板橋区にある新住民成長クラスに参加して、先輩たちやボランティアと集うことにした。

「初めて育亘さんと会った時、顔をしかめていて元気がありませんでした。その後、新住民成長クラスに来てからは、次第に心を開くようになりました」。板橋新住民成長クラスのボランティアである頼秋燕(ライ・チウイエン)さんは、初めて育亘さんと会った時の印象をこう語った。
二〇〇二年に台湾へ来た時、夫が仕事にトラブルが起こったため、彼女は言葉がまだ通じなかったにもかかわらず、家計を負担しなくてはならなくなり、デジタル刺繍の仕事をするようになった。定住できる場所がなかったあの頃の話になると、ベトナムの家族への想いも相まって、いつも目を赤くした。一家の経済的なプレッシャーで夜は安眠できなかった。

この数年間、彼女は笑顔が多くなったという。「運命を受け入れることは幸せなことです。それを受け入れれば、次にどう踏み出すかが分かり、感謝の心で歩み続けられるのです。孤立無援だった時に、新住民成長クラスが我が家のように感じました」。話を聞いてくれる人がいたことで心が慰められ、授業を受けながら次第に人生に対する考えが変わっていった。

「上人は、菜食は生霊を護り、地球を愛することであり、別の生物の命をもって私たちの命の糧にしてはならないと言っています」。彼女は授業での感想の共有を通し、ボランティアの手伝いもあって、徐々に因縁果報を理解するようになった。彼女は、前世で多くの借りがあったのかも知れないが、今生でその借りを返せることに感謝している、と言った。

ベトナムの気候は気温が高いので、料理の中で新鮮な野菜や香辛料を肉料理に添えたり、魚貝類エキスなどの調味料を加えたりするが、味はさっぱりしている。彼女は元々野菜を多めに、肉は少ししか食べなかったが、五年前から自然と肉を食べなくなった。夫は彼女の思い通りにさせていたが、一緒に菜食するのは数日で嫌になってしまった。

他の新住民たちにも同じ問題があった。皆はどうしたら家族が飲食に同調してくれるかを話し合った。例えば、肉の量をだんだんと少なくし、味付けは以前のままにすることで、お互い尊重し合いながらゆっくりと変えていこうとした。

家族がまず食材の比率を変えることを受け入れてくれたので、林さんはより多くの菜食料理を作る機会に恵まれた。夕食のメインを豆腐とテンペと枝豆にして、十分な蛋白質を摂れるようにと考えた。彼女は滅多に外食せず、新鮮な野菜を買って自分で調理する。今年の夏は特に暑かったので、家族の食欲増進のために、得意のベトナム風冷麺とタンメンに自家製XOジャンと青野菜を加えたものを作った。暇があると里芋の甘煮入りタピオカスープを作ったりして、子供たちが菜食に馴染むよう努めている。

子供たちが小さかった頃は、蛋白質を摂るには肉類が必要だと思っていたが、その後徐々に、体が必要とする蛋白質は豆類からも摂取できるので、他の生き物を殺す必要はないことが分かった。肉食をやめることにしてからは、心身共に何らかの変化が現れた。「今は良く眠れますし、体が軽くなった感じがします」と言った。

生活は相変わらず楽ではなかったが、心の持ち様が違ってきたことで人生の進むべき道がはっきり分かり、生活のために一層努力することができるようになった。彼女は積極的にキッチンに入った。故郷の味を思い出すと、直ぐキッチンに行き、レシピをめくった。七転び八起きの精神でもって、幾つもの肉料理を菜食料理に変えることに成功した。例えば、ベトナム風春巻きは、元来は豚肉やエビが入ったものを魚エキスの入ったタレに付けて食べるが、中身の肉類をエリンギと湯葉に変え、魚エキスの代わりにベトナムの伝統的な醬油で味付けした。これでも同じように美味しい。

キッチンで菜食に要領を得た彼女だが、実は慈済の厨房チームや後から来た新住民の友たちなどは皆、彼女の「料理の先生」であり、得意なXOジャンもある師姐(女性ボランティア)から教わったものである。彼女は更に味付けに工夫を凝らし、配合を調整して台湾の味に合うようにした。菜食チャリティーバザーの時、彼女の濃厚な味の菜食XOジャンが人々を惹きつけた。食べる人が喜ぶのを見ると、彼女も嬉しかった。

(慈済月刊六七〇期より)

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